事の発端
土曜日、場末の郷土料理居酒屋。
入ってくるなり、身なりが、包む空気が、違う何かを纏っている、そんな気がした。興味があったのは間違いない、けれど、向こうからも接近してくれて話をしてくれるとは思わなかった。
どうも話を聞いていると、山に惹かれ、カメラに惹かれ、花に惹かれ、世界を回っているらしい。見るところ、齢70歳を越えたところ。だけれど背筋はしっかりしている。
この方
元々、タクシーの運転手であったという。ただし、聞く限り、ハイヤーの運転手をしていたところ、とある企業の重役の運転手を1日代理で務めたところ、その重役が何か違うとこの方を引き抜くことにしたらしい。
しかも、この方、その引き抜きを「代理で引き受けただけだから」と断ったらしい。引き抜きの条件がどんどん高騰し、ついには普通で良いからと逆条件を出して引き抜きを承諾、この重役との出会いが後にこの方を山にのめり込めさせることになる。
重役に連れられ、出張付き添いと称しては各地の山に共に登ったという。その記憶を閉じ込めようと、写真を始めたそうだ。いわば、釣りバカ日誌の山版、人との出会い、瞬間との出会いがここにあった。
信念
なぜ引き抜かれたのか?自問することもあったという。けれど、信念は変わらず、しっかりやることだけだったという。ただ、一つ他の人と違うこと。
「仕事は一生懸命してはいけない。仕事はちゃんとやるもの、遊びは一生懸命にするもの。」
人を惹き付ける、そして同時に嫉妬もされるだろうが気にしない、気にしてもその人たちは自分を幸せになんてしてくれない。今までちゃんと仕事をしてきた、だから老後、こうやって好きな山へ行き、写真を撮っているそうだ。
青い芥子の花
おもむろに取り出した写真には、山に魅了された人がたどり着きたくなる、どこまでも透き通るほどの青い空、そして、高山でしか見られない花だとひと目で分かる青い花。芥子。アヘンの花として芥子は知られているけれど、この青は聞いたことしかなかった。そして、この花を撮りに行くためだけに、PENTAX 645を2台買い、ヒマラヤに登る人。
人との出会い、良い日
良い人と出会えるのは、僕の人生にとって良い日になる。そういう日に限って何かを迷っていて、そこにひょんと、確かな答えを持って現れたりする。
この方と出会えたことを記念に。そして、なかなか見られることが出来ない、ヒマラヤの青い芥子の花を「仕事はちゃんとする」という言葉を忘れないように、ここに。
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